CGAガイドライン
高齢者包括的評価(Comprehensive Geriatric Assessment:CGA)の標準化に参画。身体・認知・精神・社会面を多角的に評価し、個別化された診療計画につなげるための指針として、全国の老年内科診療に広く活用されています。
当科の関与: CGAを日常診療・研究の基盤として推進
老年・総合内科での研究は、老年関連の3つの研究グループと総合診療のグループで行っております。それぞれ切り口は違いますが、共通の目標は健康長寿を達成すること、活力ある明るい超高齢社会の構築に貢献することです。老化やそれに伴う疾患を対象に新しい発見、新しい治療の開発に努めています。各研究グループの研究内容をご一覧いただければ幸いです。また共同研究や大学院生の派遣など密な連携を保つ兄弟教室の臨床遺伝子治療学寄附講座と健康発達医学寄附講座の研究紹介も併せてご一覧ください。
老年・総合内科学
フレイル・サルコペニア(老年代謝・糖尿病)研究グループは、「骨格筋での糖代謝やマイオカインの効果を見極め、骨格筋に介入することで健康長寿を達成する」ことを目標に研究を行っています。研究体制も固まり、2022年は1年間で10編の論文をPublishするなど、着実に成果をあげています。研究テーマは、フレイル・サルコペニアを対象にした臨床研究が多いですが、同時にマイオカインをターゲットとした基礎研究、保健学専攻(神出研究室)や歯学研究科・人間科学研究科と共同のSONIC研究のデータを用いた疫学研究も継続しています。
細胞を用いた実験により、マイオカインの一種であるIL-15による糖代謝の改善作用が、IL-15の受容体αサブユニットで増強することを検証しました(Exp Physiol 2022)。さらに骨格筋において、筋芽細胞から筋管細胞への分化過程にIL-15のシグナルが重要であることを新たに見出しました。加えて、IL-15によるオートファジー制御を検証しています。また、糖尿病モデルラットに対して高血糖でもたらされる骨格筋の減少が、SGLT2阻害薬の投与によって抑制される可能性を報告しました(J Clin Biochem Nutr 2022)。
外来、病棟においては、我々のグループが随時CGAと筋力検査を実施し、データを入力・整理しています。これらのデータでは、過去の運動習慣がその後の身体機能と転倒リスクに影響することが明らかとなりました(未病学会雑誌 2022)。また、全身の骨格筋量の評価として、前脛骨筋のエコー検査は体組成計で測定したASMIと同様に有効であることを報告しました(Clin Interv Aging 2022)。外来通院中の症例を対象に、非侵襲的かつ客観的にフレイルを診断することを目的として、歩行動作解析研究が進行中です。
2012年から継続中の消化器外科との共同研究である、高齢者消化器がん症例に対する術前CGAと筋力評価は、10年近い症例の蓄積により貴重なデータベースとなっています。このデータでは、術前検査により術後のリスク層別化が可能であることが次々と明らかになっており、術前筋力が生命予後に影響することや、術前CGAや筋力は術後合併症の予測因子となることを報告しました。
フレイルを合併した消化器がん症例への術前の栄養・運動介入が、術後合併症や術後の精神・身体機能に及ぼす影響を検討するRCTを継続中です。フレイル高齢糖尿病患者に対する運動強度別介入が骨格筋指標に与える影響を解明するRCTも継続中です。また、フレイルに対する運動療法の定量化と客観的な運動処方を行うため、整形外科クリニックと共同研究の準備が進んでいます。
慢性心不全合併高齢者糖尿病へ、SGLT2阻害薬であるイプラグリフロジンの効果を検討したRCT(EXCEED)について、論文報告を行いました(Geriatr Gerontol Int 2022)。また、身体的フレイルを伴う高齢者糖尿病に対してnicotinamide mononucleotide(NMN)の効果を検証する臨床研究の論文報告も行いました(Geriatr Gerontol Int 2022)。
北海道端野・壮瞥町コホートで、下肢筋量低下とインスリン抵抗性進展の関連を報告しました(J Am Med Dir Assoc 2022)。SONICコホートでは、COVID-19流行下の身体活動変化に関連する行動のインタビュー調査を報告しました(Int J Environ Res Public Health 2022)。さらにSONICコホートを用いて、血清ビタミンDと骨格筋量の関連、動脈硬化指標とフレイル・サルコペニアの関連について研究を進めています。
当研究室は2009年1月に旧加齢医学講座に所属していた高血圧グループと老化遺伝グループが合併して出来上がったグループです。高血圧グループは先代の荻原俊男大阪大学名誉教授が開設された研究室であり、三上洋大阪大学保健学科教授、檜垣實男愛媛大学医学部教授、樂木宏実大阪大学医学部教授、勝谷友宏大阪大学医学部特任准教授をはじめとして多くの素晴らしい研究者が歴代の研究室長を務められていた名門研究室で、レニン・アンジオテンシン系のRIA assayを中心とした研究から高血圧発症遺伝子の探索に至る非常に幅の広い研究で多くの成果を上げてきました。
また老化遺伝グループは骨粗鬆症やカルシウム代謝および血管内皮機能を中心に研究をされていた老化グループとWerner症候群を中心として老化遺伝子探索を行っていた遺伝グループが合併して出来た研究室です。旧老化グループは森本茂人金沢医科大学教授、福尾恵介武庫川女子大学生活環境学部教授、安田修熊本大学循環器臨床研究先端医療寄附講座准教授など、旧遺伝グループは三木哲郎愛媛大学医学部教授、満田憲昭愛媛大学医学部教授を輩出するなど老化遺伝グループも非常に多くの実績を残された研究室です。
これらの二つのグループの根源は違えども時代の流れと共に、“Vascular Medicine”をメインターゲットとした研究分野に進出するようになりました。そこで樂木宏実教授誕生を契機として二つのグループを統合することにより、スケールメリットを生かして“世界No1のVascular Labo”を目指して行くことになり2009年6月から新生「高血圧・老化研究室」の幕開けとなりました。
「やりたいことをする」が高血圧研究室のモットーであり、老化遺伝研究室のモットーは「探求心」でした。高血圧・老化研究室はまさにこの二つを融合して「探求心を持ってやりたいことをやる」ラボとなりました。臨床教室として臨床に直結した研究および臨床実績を有するグループであることが条件であると考えて5グループを構成しました。「各々の研究テーマの窓からAgeingに導かれる様々な病態を評価・把握・分析してScienceの窓からGeriatrics と Hypertensionを再構築することにより、VascularとAgeingをキーワードとしてSuccessful ageingを科学的根拠を持って達成する。」ことをモットーとして世界的ラボを目指したいと考えています。
レニン-アンジオテンシン(RA)系は血圧維持に重要ですが、過剰な活性化は高血圧や合併症を促進します。近年、RA系を抑制する「ACE2-アンジオテンシン1-7(A1-7)-mas軸」が注目されています。当グループでは、ACE2欠損マウス等を用いて、心不全、糖尿病性腎症、インスリン感受性、さらには加齢による筋力低下(サルコペニア)への影響を研究しています。ACE2やA1-7による新しいメカニズムに基づいた骨格筋機能改善作用の全貌を明らかにし、臨床応用を目指しています。

加齢や生活習慣病によって産生される「老化促進物質」が、血管壁の受容体に結合して細胞傷害を引き起こすプロセスを研究しています。特に、アンジオテンシンII(AII)1型受容体(AT1)が、老化促進物質による細胞傷害の過程に関与するという仮説に基づき、そのメカニズムの解明を進めています。

難治性高血圧の検査・治療において、睡眠呼吸障害(特に閉塞性睡眠時無呼吸症候群)が注目されています。これは全高血圧患者の30%、薬剤抵抗性高血圧患者の80%に認められ、心筋梗塞や脳卒中などの心血管事故と強い相関があります。当グループでは、睡眠呼吸障害が身体機能(筋力)や精神機能(認知機能)に与える影響を研究し、より効果的な介入方法の確立を目指しています。
森下 竜一 教授を中心に、遺伝子治療やワクチン開発など、最先端のバイオテクノロジーを臨床に応用する研究を行っています。
中神 啓徳 教授を中心に、高血圧や糖尿病などの生活習慣病に対する新しい治療戦略や、抗老化医学の研究を推進しています。
当科は、高血圧・老年内科・総合診療の各分野において、ガイドライン制定や学会提言を通じて、日本の高齢者医療の標準づくりに貢献しています。臨床現場で培った知見を、全国の医療者が活用できる形で還元することも、当科の重要な使命です。
教室メンバーは日本老年医学会・日本高血圧学会など各種学会において、ガイドライン委員・執筆者として活動しています。CGA(高齢者包括的評価)をはじめとする老年医学のフレームワークの普及にも、長年にわたり取り組んできました。
高齢者包括的評価(Comprehensive Geriatric Assessment:CGA)の標準化に参画。身体・認知・精神・社会面を多角的に評価し、個別化された診療計画につなげるための指針として、全国の老年内科診療に広く活用されています。
当科の関与: CGAを日常診療・研究の基盤として推進
高齢者の身体機能・認知機能・併存疾患を踏まえた、安全で個別性に配慮した糖尿病診療の指針。当科ではフレイル・サルコペニア研究の知見を活かし、高齢糖尿病患者への適切な薬剤選択のエビデンス構築に貢献しています。
関連研究: 老年代謝・糖尿病、Geriatric 5Ms
ポリファーマシーへの対応、腎機能・認知機能を考慮した処方、有害事象の予防など、高齢者の薬物療法の安全性を高めるための最新指針。当科の臨床研究(5Msに基づく薬剤選択研究など)がエビデンスの一つとなっています。
当科の強み: 多剤併用高齢者の日常診療データ
当科の高血圧研究室は、レニン・アンジオテンシン系研究の名門として、歴代の教室メンバーが日本高血圧学会ガイドラインの作成に中心メンバーとして参画してきました。高齢者高血圧のエビデンス構築にも継続的に取り組んでいます。
歴史: 荻原俊男名誉教授以来のガイドライン制定伝統
山本浩一教授は、日本老年医学会において、高齢者医療の質向上と老年医学の発展に向けた提言・ステートメントを発信しています。超高齢社会における高血圧診療、血管老化、Successful Ageingの実現など、当科の研究テーマと密接に関連するテーマについて、学会を通じて政策・診療双方への示唆を与えています。
臨床現場で得られた知見を学会活動に還元し、次世代の老年医を育成する——その循環が、当科の研究・教育の根幹となっています。
日本老年医学会 提言・ステートメント当科の診療・研究・教育は、以下のフレームワークを軸に設計されています。ガイドライン制定や臨床研究の設計にも、これらの概念が活用されています。
Comprehensive Geriatric Assessment
高齢者包括的評価。身体機能・認知機能・精神状態・社会的背景・環境を多角的に評価し、個別化された診療・ケア計画を立案する老年医学の中核的手法です。
主な活用場面
5Ms of Geriatrics
老年医学の5つの重要領域(Mind・Mobility・Medications・Multi-complexity・Matters most)を統合的に捉えるフレームワーク。安全な薬物療法や個別化医療の設計に活用しています。
主な活用場面
Integrated Care for Older People
WHOが提唱する高齢者の統合的ケアの枠組み。内在能力の維持・改善を目指し、フレイル予防や地域包括ケアとの連携において重要な概念です。
主な活用場面